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(6) 誘導路を滑走路へと


 指揮所前に整列して攻撃目標、訓示、攻撃地点付近の天候、基地に帰れないときの不時着場の地名(中攻が着陸出来る広さのある飛行場)等の説明をヒザをガクガクさせながら聞き、機上の人となる。

 機銃、通信機等の整備を確認して準備良しと報告し誘導路を滑走路へと向かう。地上の手空きの兵隊たちが盛んに「帽振れ」で帽子を振っているのを横目に見ながら離陸位置へ。ひと際、爆音が大きくなり機は滑り出す。重装備だからか中々あがらないなと思っているうちに滑走の振動がなくなる、離陸である。

 除々に高度を取り脚をあげて編隊を組む、二番機の見張り員が手を振っているようなのでこちらも手を振るが自分の顔色はどんなになっているだろうかと、フト思ったりする。未だ味方制空圏内なので気持ちにもゆとりが有るが段々と暗くなり味方識別灯だけが赤く、また青くひかり翼端を示すだけとなる。

 機銃の試射を終えて、見張りを段々と厳重に電信機からのレシーバーと電鍵を銃座迄引っ張って来て、暗い夜空を動く星色の違う星を探す(飛行機の灯であれば動き、色がちがっていても飛行機であり、星はそんなに動きはしないから)

 ブザーよりも早く、「敵」と云う声にハッとして夜空を見るが機銃音もしなければ、別に異常もない。未だ敵機にも会っていないのだが、敵機が来たのかと思っていると大砲の炸裂音。あの音は何と云うか花火の音とも違うし、突然遠くで或いは下で赤い火の玉が破裂したと思うと飛行機がふるえる。夜間雷撃なので敵の飛行機は飛んでいなかったのか、いきなり敵の艦船の上に出た様である。

 編隊を解き攻撃態勢にうつり味方識別灯も消して、高度をぐんぐんと下げて行く。はるか彼方に、砲門をひらいて射撃している船の砲口からの火、曳航弾の吹き出してくる銃口らしきものが見える。高度は低く手が海に届く様だ。丁度、滑走しているとき、目の下の滑走路が後方へ飛んで行くのと同じように。

 本当は短い時間なのだろうが、とても長く感じられる。航空魚雷800k、圧搾空気を利用した九一式魚雷で施走距離二千米(メートル)、攻撃兵器はこれ1本だけ。あとは防衛用の7.7ミリ機銃が3丁あるのみである。九六式陸攻はそんなに早い飛行機ではないが、それでも1秒間に約百米(メートル)位は走る。

 二千米(メートル)で魚雷を投下して敵艦の上を通過する迄に約20秒、艦上を通過して退避するのにも30秒位。その間に敵艦橋の機銃掃射、魚雷の命中の確認、高度を取れば敵機の見張りと、体が自然に状況に対応するとは云え、忙しい。まして、直線で退避するのなら後方に火・水柱があがれば命中も確認出来るが、右に旋回したのか左に旋回して退避したのか分らないまま、魚雷が命中したかどうかを見るのは難しいものである。

 それも後続機がいなくて攻撃の最後に落とした魚雷なら火・水柱で確認できるけれど、暗い中、撃ち落とされた飛行機のあげる水柱・火柱との見分けなんて初めての経験の私等には分るものではない。魚雷発射の後は一刻も早く戦場を離れる事である。ウロウロして撃ち落されても何にもならない。

 艦から撃ち上げられる銃口の火柱、飛行機はガンガンと弾か破片の当たる音、艦の銃の火柱が目のすみに入った時は、もう艦の上をすれすれに飛んでいる。考えるひまなどなく機銃の引き金を引く。ねらって当たるものでもなし、全速で退避する。飛行機からは艦の横幅なんて一秒もかかりはしない。まして人間なぞわかるものでもない。

 唯自分に向かって飛んでくる弾丸にじっとして耐えるのでなく自分も射撃していれば銃の振動と発射音で恐ろしさ等から解放されると云うか恐ろしさを実感したり考えているひまはなく、2〜3秒もたつと火柱は遠くあちこちに見えるだけとなる。7.7ミリ機銃は1分間に4百発?位しかつめられてはいなかったようだ。

 発射した魚雷はどうなったか、全然分らない。だいいち、ねらった敵艦がどこに居るのか或いは沈んだのかも分らない。戦いはそう長くもない、5分もかからないだろう。魚雷を発射すれば後は攻撃兵器はなく、防御用の7.7ミリ銃があるだけである。

 7.7ミリ弾は炸裂段ではないので、飛行機ならばエンジンに当たるか乗員に当たらなければ効果がない。飛行機に当たったって、唯孔があくだけで燃料タンクに当たっても発火させるだけの力は持っていない。それに対して、相手のは炸裂弾だから飛行機に当たっても炸裂して破孔を拡げるし、燃料タンクに当たれば発火させるので強力である。

 兎に角、低空で右に左に退避を繰り返しながら段々と高度を取っていくのだけれど、戦場を離脱したと思うと思わずホッとして放心状態となってしまった。喉のやたらに乾いているのに気付いて、先ず自分が一番先に魔法瓶からお茶を飲み増加食を食べてから操縦員の所へ持って行く、これが役得かも。







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